柚木沙弥郎の染色 もようと色彩 @日本民藝館
先月19日、柚木沙弥郎氏の講演に出かけた。
ご自身の原点である日本民藝館について、そして創設者・柳宗悦について語りたいと、柚木先生は1時間半話し続けた。予め話す内容のメモは用意していたようだが、ほとんど何かに頼るわけでもなく、登壇席に向かうまでは杖を手にし時間はかかったが、一度席に座ると、幼少期のばあやのこと、柳宗悦氏へのオマージュ、師であった芹沢銈介氏との思い出など、楽しく私たちに聞かせてくれた。1922年生まれの95歳。日本民藝のレジェンド達との思い出話だけでなく、最近観た映画までの幅広い話題と、年齢を感じさせない伝えたいことばのセンスが若々しくて正直びっくり。
また日本民藝館で展示期間中に現存する作家が講演を行うのは、棟方志功氏以来約45年ぶりという歴史的講演であったのも驚きだ。
柚木先生の仕事スタート地となった静岡県由比町「由比正雪 紺屋」の思い出話はとても興味深かった。25歳の時、染色の基礎を学ぶために住み込みで働いていたその染色屋の一日は、その家族、見習いみな寝るとき以外のほとんどの時間は仕事だった、という。男衆らは朝から晩まで当然の事、女性も子供をおんぶしながら、染色の仕事をし、食事の用意をし、子供をあやして立ったまま食事をする。来る日も来る日も、永遠に時が止まっているような、時空超えた目まぐるしい日常がそこにあった。柚木先生が今まで過ごしていたものとは全く違う次元の生活だったが、この日常こそ、日々“生きている”充実さの実感がある生活であり、その活き活きとした生命力に溢れている時間が「民藝」の美しさに繋がっているのではないか、という話を伺い、私は初めて「民藝」という概念が少しだけわかったような気がした。
6月24日まで日本民藝館で行われている「柚木沙弥郎の染色 もようと色彩」は約70年に及ぶ創作活動で生まれた柚木先生作品が一堂に集約されている。驚かされるのが2000年に入ってからの作品、特に昨年制作された作品たちの力強さと瑞々しさだ。これまでの色んな手法やモチーフで楽しませてくれた作品より、もっとはっきりとご自身の“直観”をそのまま表現されているように感じる。
「自分が今、何をしたいのか。」
柚木先生は日々自分に聞いているという。自分がワクワクしていると自分の中から作品が生まれてくる。だから(その日かぶっていた帽子を指さしながら)こうしてお洒落してみたり、映画を見たりして、自分を“あやして”いるそうだ。
日常をもっとよく見てみると、その中には好奇心をそそるアイディアやヒントがたくさんあるはず。深刻にならずに面白がって生きていく、それが大切だと。
先生の講演、最後のことばは「お元気で。」
ほんと、柚木先生もお元気で。
直接お目にかかり、お話しが聞けたことは本当に幸せでした。
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